2023年4月24日の日本経済新聞の朝刊に
という記事が掲載されました。
デジタル給与とは、銀行口座などの金融機関ではなく、会社の資金移動業者の口座から従業員の資金移動業者の口座へ資金を移動させることによって給与を支払う仕組みのことです。
従来、給与は現金もしくは銀行振り込みで支払われていましたが、今年4月からデジタル払い制度が解禁となりました。
また、それと同時に、賃金移動業者がデジタル給与を取り扱うための申請受付も開始されました。
しかし現時点で、デジタル払いサービスに参入意向を示してきたのはPayPayやauPAYなど資本力のある大企業ばかりで、スタートアップは申請を当面見送る企業も多いといいます。
なぜでしょうか。
まず、キャッシュレス決済業者は資金決済法に基づき、顧客から受け取った額以上の金額を法務局などに供託する必要があります。
例えば口座に100万円の入金があれば、100万円以上の供託金を積む必要があります。
それに加え、口座保証金や万が一の破綻に備えるコストも参入のハードルになっています。
万が一業者が破綻した際には6営業日以内に預入残高を弁済する仕組みが求められますが、それを実現するには相当なコストと手間がかかります。
当初デジタル給与は2021年度中の解禁が計画されていましたが、デジタル口座の安全性を疑問視する声が大きく、延期を余儀なくされた経緯があります。
その結果、デジタル給与の制度作りに携わった職員から「安全網が過剰すぎるのではないか」と意見が出るほど安全網を何重にも巡らせて準備を進めてきましたが、デジタル給与参入を試みるスタートアップからは「安全網の整備は負担が重すぎる」という不満の声も上がっています。
近年のキャッシュレス決済や送金サービスの普及、また働き方の多様化に伴い、デジタル給与の需要は高まってきています。
今後デジタル給与を利用するかもしれない立場としては、破綻だけでなく詐欺や錯誤防止への必要コストを軽視してほしくはないというのが個人的な意見です。
しかし、サービスを担う業者の目線で考えると、コストがかかりすぎると再ビスを担う業者の負担が増え、制度の普及が進まないという懸念もあります。
デジタル給与はあくまで給与の受け取り方の選択肢のひとつにすぎませんが、今後デジタル給与の規制の議論がどのように進んでいくのか、注目してみるといいかもしれません。
<近井 萌華>