配偶者の扶養に入っているパートタイム労働者は、収入が一定の額を超えると扶養から外れて自身で社会保険に加入する必要があります。
労働条件や企業規模によって条件は異なりますが、月収8万8000円(年収換算106万円程度)以上で社会保険料の負担が生じるため、収入が一定の水準を超えないようあえて労働時間を減らす人が多い傾向にあり、この現象を「年収の壁」と呼ぶことがあります。
政府が最低賃金の大幅な引き上げを目標に掲げ、消費拡大や人材確保のための賃上げが意識されるようになった結果、日本の最低賃金は大幅に上昇しました。
しかし、最低賃金の上昇に伴って労働時間は減少しており、パートタイム労働者の時給は30%近く上昇していたにもかかわらず、年収の伸びは5%程度にとどまっていることが明らかとなりました。
2023年7月1日の日本経済新聞記事
「年収の壁」で働き控え ~時給3割増も年収は5%どまり~
最低賃金の上昇により「年収の壁」が意識され、働き控えが起こったと考えられますが、最低賃金の引き上げが年収の増加につながらなければ、政策の実効性は弱まり、企業にとっても労働力不足といったマイナスが生じてしまいます。
少子高齢化により今後労働人口が減少していく日本で、就労意欲のあるパートタイム労働者が「年収の壁」を意識せずに働ける環境を整備することは、女性活躍や経済成長にとって極めて重要とされています。
政府は「年収の壁」対策として一時的な助成措置を検討していますが、社会保険料の見直しや税制改革など、より根本的な制度改革が求められています。
また、労働時間の柔軟性や労働条件の改善など働く人々が働きやすい環境を整えることで、生産性の向上や人材の確保につながります。労働者の収入増加と労働条件の改善を両立させることで、持続可能な社会経済の構築に向けた取り組みが必要だと考えられます。
<室本 真希>