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年金制度の改革について

2024年7月16日の日本経済新聞の記事に

厚労省、年金改革へ5案検証 パートほぼ全員加入案など

という記事が掲載されました。

厚生労働省は16日、年金制度の改革に向けて議論の土台となる下記5項目を発表しました。

①厚生年金の対象拡大
②基礎年金の納付期間40年→45年
③基礎年金の給付抑制を早期停止
④在職老齢年金の見直し
⑤保険料の基準額の上限上げ

最も事業主に影響が大きいのは①厚生年金の対象拡大といえるでしょう。

現在厚生年金に短時間労働者が加入するには従業員101人以上の企業に勤務し、他諸条件を満たす必要がありますが、今年10月からは規模要件が51人以上の企業に拡大されます。

今回の検証において、パート労働者のほぼ全員が加入可能となる厚生年金の対象拡大案などを提示されました。

対象拡大によって事業者側の拠出が増えることから、各項目の給付水準を試算し、保険料を払う加入者や事業主への影響を見極めたうえで改革に盛り込むかを判断する見通しです。

②基礎年金の保険料納付期間を巡っては現行の40年間(20〜60歳)を45年間(20〜65歳)へ延長することで給付額がどれくらい上がるかを試算します。

全ての加入者の年金額は多くなるというメリットはありますが、低所得者を中心に保険料の負担感が強まるという課題があげられます。

③基礎年金の給付額に関しては「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みによって抑制される期間が厚生年金よりも長くなっており、この期間を厚生年金の財政から基礎年金の財政への拠出額を増やすことで短縮し、年金額がどれくらい増えるかをみます。

働く高齢者の厚生年金受給額を減らす④在職老齢年金制度の見直しも、今後の高齢者の働き方に影響の大きい議題です。

現在は賃金と厚生年金の合計が月50万円を超えると年金が減額となるため「働き損」を敬遠して就業時間を調整する人がいますが、高齢者の就業促進に向けて制度を廃止・緩和した場合の効果を調査します。

また⑤保険料の基準額の上限引き上げについて、会社員や公務員が入る厚生年金の保険料は「標準報酬月額」と呼ばれる基準額に保険料率18.3%を掛けた分になりますが、負担が過大にならないように上限が設けられています。

月給がどんなに高くても現在厚生年金の標準報酬月額は65万円が上限ですが、今回上限額の引き上げを検討します。年金財政の持続性を高める狙いがありますが、影響を受ける高所得者からの反発も免れないでしょう。

5項目いずれの改革にもハードルがあるといえます。特に厚生年金の加入拡大は、事業主側の拠出負担が増えるためパート労働者の割合が多い業界から段階的な措置を求める声が根強いです。

16日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)年金部会では日本商工会議所の審議会委員から「各試算における社会保険料の負担の変化を示してほしい」と求める声が上がりました。

また今回の検証には上がっていませんが、厚生年金被保険者の配偶者が対象の国民年金第3号被保険者制度についても、段階的に廃止を検討する意見もあります。制度開始の昭和61年と比較して、結婚しても働き続けることが当たり前となった現在において今後の検証は必須といえるでしょう。

その他遺族年金の男女で年齢などの受給要件に差があり、これまでの審議会の議論で、男女差を解消する必要があるとの指摘がありました。

少子高齢化が進む中、年金財政を維持し、国民の高齢期の安心を担保するためには、今後も時代に即した柔軟な制度改革が必要といえるでしょう。

<松尾 頌子>