2024年12月8日の日本経済新聞の朝刊に
という記事が掲載されました。
昨今、与党と国民民主党との間で「103万円の壁」の引き上げ問題が話題となっています。地方自治体は壁のあげ方次第で税収減の影響を受ける可能性があるとして、警戒感を強めており、「地方が担う行政サービスに支障をきたすことがないよう、その基盤となる地方税財政への影響を考慮すべきだ」という声も上がっています。
総務省の試算によると、国民民主党案に沿って個人住民税の基礎控除を75万円引き上げると、地方自治体に入る個人住民税は4兆円程度減るという結果が出ています。
削られた税収減は「地方交付税」で補えばいい、という意見もあります。地方交付税とは一言で言えば「国が地方に代わって徴収する地方税」であり、本来は地方の収入にすべき税を国が代わって集め、自治体ごとの財源の不均衡をならすために再分配するものです。地方交付税の税の分配率は地方交付税法で決まっていますが、壁の引き上げに合わせて分配率を見直すことで、地方の収入減を防ぐという手もなくはないということです。
しかし総務省は「国の税収を圧迫する。財務省の賛同を得るのは難しい」とみており、実現は難しいと考えられます。
現時点で、すでに地方交付税は地方の財政需要と比べて不足しており、「赤字地方債」である臨時財政対策債を発行するなどして賄っています。今回の「壁」の引き上げで自治体の税収がさらに減れば、各自治体独自のサービスに影響が出るのは避けられないでしょう。さらなる赤字地方債を発行することについて、「国からの補填は恒久的かつ、真水であることが当然だ」「この問題を解決しないと地方自治体は声を上げ続ける」などの声が多方から寄せられています。
総務省によれば、地方税には「安定性の原則」があり、景気変動に左右されず、安定して税収を確保できることが求められるといいます。今回の引き上げはこの「安定性の原則」を乱す可能性を大いに含んでおり、危機感を持つべき社会の課題だといえます。
壁の引き上げは働き控えの解消や働く人の手取り増加で、やがて消費の活性化と税収増につながるという見方もありますが、その結果、住民に身近な自治体サービスに支障が出れば元も子もありません。
現在日本では急速に人口減少が進行していることを考慮しても、働き方の改革、自治体サービスの向上どちらもおざなりにすることはできない問題であるので、この「年収の壁」引き上げ問題は今後も混戦していくと考えられます。
<福万 ひな>