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転勤について

2019年12月1日の日本経済新聞の朝刊記事に

「できれば転勤したくない」4割 介護や教育が困難に

という記事が掲載されました。

転勤は、就業規則上の根拠規定があり、労働者が就業規則を守る旨の契約書を事前に提出していれば、原則として一方的に命ずることができます

また、使用者には多くの支店や出張所があり多くの従業員が転勤していること、労働契約締結時に勤務場所の特定の合意がなされていないこと等の事情がある場合、当該労働契約においては、転勤命令に、労働者の転勤時の個別的合意は必要ないとされます。

ただし、転勤命令が

①業務上の必要性が存在しない場合
②他の不当な動機、目的をもってなされた場合
③労働者に通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせる場合

には、当該転勤命令が権利濫用に当たる場合もあるので注意が必要です。

高度成長期の日本にとって、転勤は企業の成長と終身雇用を支える制度の一つでした。

終身雇用制度の下では、一度雇った従業員は容易に解雇できません。そのため、一時的に労働力が必要になっても、すぐに人を増やすのではなく、今いる人の異動や長時間労働で乗り切ろうとしていました。

新しい地域に支社や支店を出すときも、まずは今いる人間をそこに送り込むという形で拡大を図ってきました。

そうして、事業の拡大をしてきた企業は、やがて人材育成のためにも転勤を使うようになり、様々な職種やポストを経験させ昇進をさせてきました。

高度成長期の会社員にとって、転勤を受け入れることは終身雇用という安定を強固にするものであり、出世のチャンスという側面も強いものでした。

しかし、共働きが増え、夫婦ともにフルタイムで働くケースが一般化してきている現在では、転勤という制度に個人にとってのデメリットが大きくなっています。

夫婦のどちらかが転勤となり、配偶者が同伴するとなると、配偶者のキャリア形成に支障が生じます。また同伴しないとしても、子育てや介護などによって、一方の負担が非常に大きくなります。

こうした背景などから、現在の日本には、「転勤」という制度は合わなくなってきています。

記事にもあるように、転勤という制度を見直す動きが進んでいるというのも、時代に合わせた自然な流れとも思えます。

しかし、業務上、転勤をさせることが必要となる場合もあるでしょう。

転勤を行う場合でも、転勤により労働者の私生活に不利益が生じる以上、その不利益を回避する配慮を、企業は十分行うべきであるとされています。

今後は、労働者の個々の事情に合わせて、勤務地を限定したり、転勤をさせないことを条件とした多様な勤務形態を受け入れることが出来る制度を導入するなどの柔軟な対応が、有能が人材を確保していけるポイントとなるかもしれませんね。

〈藤川 楓〉