福岡の社会保険労務士法人 COMMITMENT

Consultation

勤務について

事業場外のみなし労働時間制について

①制度の経緯

使用者の管理監督下に、直接かつ現実的におかれているときの労働時間が「実労働時間」となりますが、販売会社のセールス社員などの外勤者がいわゆる外回りの勤務をする場合や、内勤者でも事業場外へ出張する場合は使用者の指揮管理下になく、業務の内容や仕方は各自の自由に任されます。

このような外勤の特殊性のため、従来より労働基準法施行規則第22条で、以下のように定められていました。

「労働者が出張、記事の取材その他事業場外で労働時間の全部又は一部を労働する場合で、労働時間を算定し難い場合には、通常の労働時間労働したものとみなす。但し、使用者が予め別段の指示をした場合はこの限りではない。」

しかし、この施行規則だと時間外労働が何時間あっても、算定し難いという理由だけで会社が決めた『通常の労働時間』、つまり所定労働時間の勤務しかしていないことにされてしまい、内勤者が残業した場合と比べて不利益な面があるため、「営業手当」というようなもので外勤者の残業代を補うような方法が出てきました。(②参照)

そして、第3次産業の拡大に伴って労働時間の算定が難しい業務が増加し、法整備の必要が出てきたため、使用者の昭和62年の労働基準法改正でこの施行規則は法第38条の2として法の中に規定されることになりました。以下の通りです。

~労働基準法第38条の2~

「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。

ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要になる場合においては、当該業務に関しては、命令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

②前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。

③使用者は、命令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。」

つまり、昭和62年労基法改正では、事業場外において行う業務が当然に、所定労働時間を超えて労働することが必要である場合、つまり常態的に所定時間オーバーとなることが明らかな場合には、その業務の遂行に「通常必要とされる時間」を労働したこととみなす(時間外として取り扱う)ことが法律として明確にされたことになります。

この「通常必要とされる時間」を労使の協定によって定めた場合には、その時間を「通常必要な時間」としてよい、とされました。

②外勤者の営業手当の取り扱い

何時間発生するか不明な労働時間について、その残業相当分として「営業手当」「セールス手当」といった一定の賃金を支払う場合がありますが、この場合には、この手当が「外勤」という勤務形態に対して支払われている、つまり「特殊勤務手当」の意味合いで支払われているものではなく、外勤に伴う交通費や旅費などに変わるものとして実費弁償的に支払われているものでもないことを明確にした上で支給する必要があります。

その場合には、超過勤務手当として支払ったものが定額であっても、その全額が固定の残業手当として認められる、とされています。
(昭和52.3.7基発119号通達)

しかし、法定の計算による超過勤務手当の額が、定額の超過勤務手当を超える場合(定額が30,000円で、計算による額が35,000円というような場合)に、毎月固定で支払っているのだから残業代は支払ったものとする、ということは出来ません。

判決では、以下のようにされています。

「労働者に不利な部分即ちかような(定額残業代が計算額を上回る場合の)差額を放棄する特約は、労働基準法第37条が労働時間を1日8時間とし、それを超える時間の労働をさせ、あるいは休日に労働させた場合は通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わねばならないと定め、これに達しない契約は同法第13条(労働基準法の効力)により無効とされることにより、無効と解さざるを得ないのであってその差額分について、使用者は支払いの義務がある。」(昭40.7.15東京簡裁判決)

③固定の超過勤務手当の定め方について

事業場外の勤務の労働時間が、明らかに所定労働時間を超えるのであれば、まずは事業場外労働に関する協定届を労使で締結し、みなされる時間数(たとえば9時間)を明らかにして、所定労働日数から1ヵ月あたりの残業時間数を計算し、その時間数に見合った手当を計算することが必要だと思われます。

このとき、1年を通じて、残業時間数を固定することになります。

1年間には、所定の労働日数によって、残業が多い月も少ない月も出てくるでしょうから、職種ごとに1年間の勤務カレンダーなどを参照にして、「平均」ではなく「多い月」を基準に時間数を定めることが重要だと思われます。

勤務についての最新記事