2025年7月7日 の日本経済新聞に
という記事が掲載されました。
政府は小規模な個人経営の農家が人を雇った場合、労災保険への加入を義務付けることを検討しています。機械を使う危険な業務が多いほか、担い手の高齢化や猛暑を背景に熱中症などのリスクが増加している為です。
新規就農者の確保など生産基盤の強化に向けて労働環境を改善し、コメ増産を含む農政改革を行おうとしています。
労災保険は原則、労働者を雇用するすべての事業主に加入義務があります。例外として、農業分野は個人経営で常時雇用が5人未満の場合は任意加入となります。
実態把握が難しく、田植えや収穫など繁忙期のみ臨時で雇う農家が多い上、雇用関係があいまいなまま集落内で共同で農作業したり、働き手を融通したりする慣習もあることが理由です。
農林水産省は労働者を短期で雇う農業の事業主は全国に最大12万人ほどいると試算されています。
強制加入になると、事業主と労働者あわせて数十万人が新たに対象になる可能性があります。年収300万円の労働者を雇う場合は1人あたり年4万円ほどの保険料を事業主が納める必要があります。
強制加入には労働実態の把握や事業主の事務負担といった課題もあります。保険料を販売価格に転嫁できなければ、農家の所得が減る要因になりかねません。
農水省によると、2022年の農作業事故の死亡者は就業者10万人あたり11.1人で増加傾向にあり、建設業(5.9人)の2倍に上ります。その内、農業機械作業中の事故が63.9%、熱中症が12.2%を占めています。
近年の猛暑もリスクを高めています。死亡事故に占める熱中症の割合は13~17年の5.4~8.0%から18~22年は9.5~15.7%に上がっています
未加入の労働者が業務によって亡くなった場合、労働基準法に基づき事業主に補償責任があります。事業主に支払い能力がなければ、十分な補償を受けられない恐れがあります。
また、家族だけで農業を営む例もあります。同居親族のみによる事業は原則、労災保険の対象外となります。
理想と現実のギャップがある中で、安全安心な労働環境を作り、コメ増産を含む農政改革を進めてほしいものです。
<手島 裕子>