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最低賃金の引き上げが企業に問うもの

日本経済新聞では、民間求人サイトに掲載される募集時給と最低賃金との差が縮小し、25府県では100円未満となっている現状が報じられていました。

最低賃金に近づく求人条件、25府県で差100円未満 賃上げ余力乏しく

政府は2020年代に全国平均1,500円という目標を掲げていますが、原材料価格の高騰などを背景に、特に地方の中小企業では賃上げの余力が限られている実態が浮き彫りとなっています。

最低賃金の引き上げは、働く人の生活を支えるうえで重要な施策ですが、問題は、その引き上げに地域の経済や企業の実力が追いついているかどうかです。

募集時給が最低賃金に張り付くということは、企業が「払いたくて払っている」のではなく、「法律で決められたから、ぎりぎりその水準で募集している」状態に近づいていることを示唆します。

賃上げの原動力が、企業の余力ではなく制度の強制に置き換わりつつあるとすれば、それは長続きする賃上げの形とは言えません。

また、人件費の増加だけでなく、企業がその負担に対応するための準備期間も必要です。賃金体系の見直し、価格転嫁の交渉、人員配置の調整などには時間がかかります。

大幅な引き上げを急いで発効させれば、対応しきれない企業が打撃を受けかねません。そのため、引き上げ幅が特に大きかった地域ほど、発効日を後ろにずらして、企業に猶予を与える判断がなされたのです。

最低賃金の引き上げが抱える課題は、企業側の負担だけではありません。働く側にも、賃上げの効果を打ち消しかねない壁が存在します。それが、いわゆる「年収の壁」です。

壁を越えて手取りが目減りするのを避けようとすれば、働く時間を減らすしかありません。これが、就業調整、あるいは働き控えと呼ばれる現象です。

この問題は、人手不足の悪化や、最低賃金引き上げの「本来の狙い」と相反してしまいます。

最低賃金は、単に「時給を上げればよい」という法令遵守の問題だけではありません。

人材確保や企業経営にも直結する重要なテーマです。

賃金体系の見直しや人件費のシミュレーション、生産性向上への取り組み、さらには人材が定着する職場づくりまで含めて考えることが重要です。

変化を負担として受け止めるのではなく、自社の働き方を見直す機会と捉え、早めに備えていくことが、これからの企業経営には求められるのではないでしょうか。

<鴻矢 智美>