
男性の育児休業取得率が、2025年度に50.9%となり、政府が掲げていた「2025年に50%」という目標を達成しました。
一方で、取得期間を見ると「1~3カ月未満」が約3割と最も多く、「1年以上」の取得はわずか2.1%が現状です。男性の育休取得が進んでいるとはいえ、長期間の取得にはまだ大きな壁があることが分かります。
では、なぜ「取得したい」と思っていても、長期の育児休業を取得することは難しいのでしょうか。
そこには制度があっても「取りにくい」という現実があるのだと思います。
育児休業制度が整っていることは、もちろん大切です。しかし、制度があることと、実際に安心して利用できることは、必ずしも同じではありません。
例えば、「育休は女性が取るもの」「長く休むと周囲に迷惑をかけてしまう」「仕事への意欲がないと思われないだろうか」「評価や昇進に影響するのではないか」「復職した後、自分の居場所はあるだろうか」こうした不安があれば、制度があっても取得をためらってしまいます。
特に、上司や管理職の考え方や行動は、職場の雰囲気に大きく影響します。
「育休を取っても大丈夫」と言葉では伝えていても、上司自身が育休を否定的に捉えていたり、取得した社員を特別な存在として扱ったりすれば、社員は敏感にその空気を感じ取ります。
だからこそ、男性の育児休業を推進するためには、制度の周知だけではなく、「育休を取得することは特別なことではない」という職場文化をつくることが重要なのだと思います。

また、心理的なハードルだけではなく、実際に男性が育児休業を取得する際の課題として、最も多かったのが「代替要員の確保が困難」という回答で75.6%にものぼりました。
慢性的な人手不足。一人の社員しか分からない業務。長期間にわたって担当者が固定されている仕事。重要なプロジェクトを一人で抱えている状態。
このような環境では、制度があっても利用することをためらってしまいます。
つまり、育休を取得しやすい職場をつくるためには、「休んでも仕事が回る仕組み」を、日頃からつくっておく必要があります。
そして今回の記事で、特に印象に残ったのが「引き継ぎ」の部分です。
ある男性社員は、育休取得の約半年ほど前から上司や関係部署への周知を始め、担当業務については、約2カ月間かけて「伴走型」で引き継ぎを行っていました。
単純に「この仕事をお願いします」と渡すのではなく、相手が自分で仕事を回せるところまで、一緒に進めていく。この方法は、育休に限らず、誰かが休んだとき、異動したとき、退職したときにも役立つ考え方ではないでしょうか。
育休取得をきっかけに、業務を整理し、マニュアルを整備し、引き継ぎ計画を立て、チームで業務を分担する。
そうすると、これまで「○○さんにしかできない」と思っていた仕事が、少しずつ「チームで対応できる仕事」に変わっていきます。
突然の病気や介護、本人の事情による休暇、異動や退職など、誰かが職場を離れる場面は、これからも必ず起こります。
だからこそ、普段から業務を「個人」に抱え込ませず、「組織」で共有しておく。
その積み重ねが、結果として誰もが安心して休める職場につながるのだと思います。

「休む人」だけではなく「支える人」も大切に
さらに、育休を取得する本人への支援だけでなく、その間に業務を担う周囲への配慮も欠かせません。育休によって一時的に業務負担が増えることもあります。
だからこそ、業務の見える化や適切な分担だけでなく、必要に応じて他部署からの応援や外部人材を活用するなど、組織全体で支える仕組みを考えることも必要です。
「育休を取る人」と「その人を支える人」を対立させるのではなく、チーム全体が無理なく支え合える環境をつくること。これも企業に求められる大切な役割ではないでしょうか。

大切なのは「取れる制度」から「取れる職場」へ
誰もが必要なときに安心して休み、そして安心して戻ってこられる職場をつくること。
そのためには、制度、社内文化、管理職の理解、そして業務体制。
どれか一つだけではなく、すべてを少しずつ変えていくことが必要です。
そしてその取り組みは、育児休業を取得する人のためだけではありません。
誰かが休んでも、誰かが困らない。
そんな組織をつくることは、働くすべての人にとって、安心して働き続けられる環境をつくることにつながるのではないでしょうか。
<鴻矢 智美>